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仙台高等裁判所秋田支部 昭和39年(ネ)38号 判決 1965年10月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、控訴代理人において、

「一、青森地方裁判所弘前支部に係属中の昭和三四年(ケ)第一五九号、第一七八号不動産競売事件につき、被控訴人は昭和三四年九月二日競売物件たる別紙目録記載の(一)乃至(六)の各不動産(以下単に本件不動産と略称する。)を一括競売に付されたい旨申立て、同裁判所は右各不動産を一括競売に付することとし、これが競売公告をなし、競落人三上清正は本件不動産を一括して競落したものである。ところで数個の不動産を一括競売に付した場合においては数個の不動産全部に対する価額が最低競売価額となるものであつて、個々の不動産毎に最低競売価額が存するものではない。

本件競売公告には本件不動産全体に対する最低競売価額を表示するのほか各不動産毎に各別の価額が表示されており、また執行吏大谷真三作成の競売調書には各不動産毎に競買申出額を記載し、競買人三上清正が各不動産毎に競買を申出てた如く記載し、恰も本件競売手続は一括競売と個別競売とが併存しているかの如く表現されているけれども、右各記載は本件不動産全体の最低競売価額を算出する根拠を明確にするため便宜記載したにすぎない。

要するに本件競売手続において最低競売価額として効力を有するのは本件不動産全体に対する価額として表示された金九、九一五、六〇〇円の記載のみであつて、各不動産毎に記載されている価額は最低競売価額としての意味を有するものではない。したがつてまた競買申出も不動産全体に対し一個存するのみであり、競落代金は各不動産の各別の価額に応じて分割することは許されず、不可分のものとして配当を実施すべきものである。被控訴人の本訴請求はこの点において失当である。

二、右主張が理由がないとしても、控訴人は本件不動産のうち(一)乃至(四)の土地および(五)の建物を共同担保として昭和三二年五月二〇日債権元本極度額金七〇〇万円とする抵当権設定登記を有し、本件配当期日における被担保債権は金四八六万円およびこれに対する昭和三三年一一月六日以降昭和三五年五月二四日まで日歩五銭の割合による損害金一、三七五、三八〇円を有していたものである。ところで控訴人の右(五)の建物に対する根抵当権は一番抵当権なるところ二番抵当権者たる被控訴人は同建物に対し競売を申立たものであるが、被控訴人は優先債権たる控訴人の債権および競売手続費用を弁済して剰余ある見込がないときは、右優先債権および競売手続費用を弁済して剰余あるべき価額を保証すべきところであるから(民事訴訟法第六五六条)(五)の建物の競落代金が右優先債権および競売手続費用に充たない場合においては、被控訴人は優先債権者に配当さるべき金額を保証すべく、優先債権者たる控訴人の配当金額を同額以下と主張し得ないものである。」と述べ

被控訴代理人において「右主張事実を否認する。」と述べた。

立証(省略)

理由

控訴人の本件控訴は失当として棄却すべく、その理由は原判決理由に左記のとおり附加、訂正を加えるほか原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決六枚目裏一二行目冒頭より同八枚目表二行目「場合である。」までを次のとおり訂正する。

一、訴外弘前土地建物株式会社所有の本件不動産(一)乃至(六)に対し、被控訴人主張の各根抵当権設定登記がなされていること、被控訴人は本件不動産(五)、(六)の建物につき昭和三四年七月二九日青森地方裁判所弘前支部に対し、根抵当権に基く競売の申立をなし、同庁同年(ケ)第一五九号事件として係属し、同日競売開始決定がなされたこと、さらに本件不動産(一)乃至(四)の土地につき同年八月一九日同支部に対し、前同様根抵当権に基く競売の申立をなし、同庁同年(ケ)第一七八号事件として係属し、同日競売開始決定がなされたこと、右(一)乃至(六)の土地、建物は一括競売に付され、昭和三五年一月二六日被控訴人主張の金額で競落許可決定がなされたことはいずれも当事者間に争いがないところである。

二、ところで抵当の目的たる数個の不動産に対し競売の目立がなされた場合、これを一括競売に付するか個別競売に付するかは競売裁判所の自由なる裁量に属するものであるけれども、右各不動産上に債権者を異にし、その順位を異にする抵当権が設定されているときは民法第三九二条第一項の法意に鑑み個別競売に付するを相当とすべきである。

前記争いのない事実によれば本件不動産(一)乃至(四)の土地については第一順位訴外株式会社第五十九銀行、第二順位被控訴人、第三順位控訴人、(五)の建物については、第一順位控訴人、第二順位被控訴人、(六)の建物については、第一順位訴外昭和信用金庫、第二順位被控訴人の各根抵当権が設定されているものであるから、これ等不動産を一括競売に付するときはその配当額の算定に支障をきたすこととなる。よつて右各不動産は個別に競売すべきものと謂わなければならない。

ところで本件についてみるに、成立に争いのない甲第一一号証によれば、本件競売公告には本件不動産を一括競売に付する旨の記載があり、成立に争いのない甲第五号証、第一〇乃至第一二号証ならびに当審証人三上清正の証言によれば、訴外三上清正は本件不動産を一括して競買申出したことが伺えないこともないけれども前記競売公告には本件不動産(一)乃至(六)全体の合計額を最低競売価額として掲げると共に、右各不動産の価額を個別的に最低競売価額として掲げており、競落人三上清正は右各不動産の各最低競売価額と同額の価額をもつて競落したため競売調書には各不動産毎にその競落代金が記載されていることが認められるから、各順位を異にする根抵当権者が存し、その配当額を算定しなければならない本件競売においては本件不動産(一)乃至(四)の土地の一括競売と(五)、(六)の建物の個別競売が併行して行われたものとみなすのを相当とすべきである。

(二)  原判決九枚目表一行目に「根抵当権設定契約を解除」とあるを「前記継続的手形貸付等の契約を将来に向つて解除」と改める。

(三)  原判決一一枚目裏三行目の次に、

「控訴人は民事訴訟法第六五六条を根拠として、本件不動産(五)の建物の競売については、少くとも控訴人の抵当債権額に充つるまで被控訴人に保証責任があるから、本件競落代金の控訴人に対する配当金額が右抵当債権額を下廻る結果となるような主張を被控訴人がなすことは許されないとの趣旨を主張するけれども、右は独自の見解に過ぎないのみならず、抵当権者は抵当権の実行としてその抵当権の目的たる不動産を競売してその売得金より債権の弁済を受くることを得べき権利を有するものであるから、その権利実行のためにする不動産の競売申立は、これを債務名義に基き一般債権者の強制執行のためにする不動産の競売申立と同一視すべきでなく、縦令その競売の目的たる不動産上の競売を申立てたる者の抵当権に優先する抵当権が存在し該優先権者に弁済をなすときは不動産上の最低競売価額をもつてしては剰余の見込なき場合においてもその競売はこれを続行すべく、民事訴訟法第六五六条の準用なきものと解するを正当とする。(昭和五年(ク)第三三九号、同年七月一日大審民事二部決定、大審民集九巻八三四頁参照)よつて任意競売に民事訴訟法第六五六条の準用あることを前提とする控訴人の主張はその点からも採用することができない。」

を加える。

(四)  よつて原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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